医学部受験コラム MEDICAL COLUMN
親子関係
子は医学部に行きたいのか?「保護者にとっての医学部受験」とは・・・
2019.11.22
冬も近づき、いよいよ大学受験も追い込みの季節。受験生本人よりも神経質になるのが保護者の性分とはいえ、サポートの仕方を間違えると、受験の前に、親子の絆にヒビが入ってしまうこともありえます。今回は、受験生の保護者が心がけたいことを紹介していきます。
「受験に失敗しても愛は変わらないか」を自問自答する
志望校に行きたいのは誰なのか。本当にわが子が大学に「合格したい」と思っているのか。受験本番となる前に、そのことを改めて問いたいものです。
たとえば、「医学部に合格した」と親戚やご近所に話すところをイメージすることはありませんか。そのなかに、晴れやかなわが子の姿はありますか。受験シーズンを無駄に終わらせないためにも、子どもと「本当に医学部に行きたいのか」について、腹を割って話しておきたいものです。
実際、子どもが国公立受験に合格した方に話を聞くと、ことあるごとに「もしも受験に失敗しても、私とお父さんはあなたを見捨てないよ」と言い続けていたといいます。医学部に入れても入れなくても、愛するわが子であることには変わりがない。両親からのそんなメッセージが、子どもをますますやる気にさせるのです。
逆に、医学部の合否が子どもへの態度に直結しているような家庭では、親子関係が修復不可能なまでにこじれてしまうケースも珍しくありません。なかには、子どもが保護者の方の顔に教科書を投げつけるほど衝突していた家庭もありました。「勉強できない子はいらない」と公然と口にする親に対して、自分の人格を守るために、子どもは必死で反発していたのです。
こうした家庭では、保護者の方も社会的に成功しており、「子どもにも、自分のように成功した人生を」と望んでいることが多いです。しかし率直に申し上げて、それは子どものことを無視した願いです。勉強ができる=価値のある子、という接し方を続けていると、当然子どもは「成績の低い私には価値がない」と思い込むようになってしまいます。その結果、成績優秀な「いい子」でも、「私は勉強以外に取り柄がない」と、強い自己否定の気持ちが植え付けられてしまうこともあるのです。
また、求められるままに勉強をして、スポーツや音楽、絵といった、学業に直接的には関係のない活動をさせてもらえずに育った子は多いです。しかし大学では、学力が同レベルでも、その他の才能に優れた人もたくさんいます。その人達と比べて「自分は何も持っていない。親は自分に何も与えてくれなかった」と恨む気持ちを抱くようになってしまう子どもも、確かに存在しています。
もし子どもが本当に医学部への進学を望んでいないのなら、今は別の道を歩ませてあげる勇気も大切です。医学部に行かなかったとしても、その子の価値が減るわけではないのですから。
それに、社会人経験を経てから医学部を志している人も最近は増えています。当然、30歳代の予備校生も珍しくはありません。たとえば、過去の生徒のなかには、医学部受験を当然のように期待する父親に反発し、一般受験をした学生がいました。彼は大学卒業後、都市銀行に入行し、社長賞を取るなど大活躍していました。
しかし、社会経験を積むなかで、命に向き合う医療世界の尊さを実感し、「やっぱり医師になりたい」と思い直したそうです。彼は30歳を超えてからの医学部受験で、見事合格を勝ち取りました。
昨今の医学部受験では、人間性が重視される傾向が強くなっているため、社会人経験のある受験生も歓迎されているようです。医療以外の世界を見たことは、その人ならではの「いいお医者さん」像の形成に役立つのではないでしょうか。
回り道もまた成功に通じているという話では、こんな話もあります。息子の医学部受験浪人が決まった際、ある保護者の方は、世話になった知人から「浪人してよかったね」と言われたそうです。
「よかったんじゃない、挫折して。負けを知らないまま医者になるよりも。病院って、病気で体や心が弱った人がくるところだから。そういう人を支えられるためには、自分にも打ちひしがれた経験がないと」
その言葉にはっとさせられる方も多いのではないでしょうか。わが子を応援したい気持ちがありつつも「浪人かぁ……」と複雑な思いになってしまうかもしれません。しかし、何の肩書もない、どこにも所属していない浪人時代こそ、丸裸の人間として成長するためのよい機会なのです。
受験では結果ばかりに注目しがちですが、ぜひ、人生を通した広い視野でわが子を見てあげてください。「最後までわからない」と気長に構える余裕も、保護者としては持っておきたいものです。
保護者はあくまでも「三枚目」を貫くこと
受験生と保護者がコミュニケーションする上で、大切なことは、どんなに心配でも「三枚目として振る舞うこと」です。受験生は悪い情報に敏感で、悲観的になりやすいです。だからこそ、保護者の方がコミカルな反応を演じることで、心の重荷を解放してあげるのです。子どもの成績がどんなに悪くても、叱ったり、「勉強しろ」と命じたりすることは厳禁です。
たとえば医学部受験生の場合、理数系が得意でも、国語の成績が絶望的に悪いケースは少なくありません。
そんなとき、「何でできないの!」と怒るのではなく、たとえば笑いながら成績を見て「ウソ!? ちょっと気分悪くなってきた。横になってもいい?」などと、わざと大げさにリアクションするのです。子どもが落ち込むことのないよう、笑いを誘うことが大切です。
保護者の方が三枚目の役割を演じることで、子どもは「成績が悪いことで家に居場所がなくなる」という心配をせずにすみます。結果、すぐに気持ちを切り替えて、勉強に向かうことができるのです。
悪いイメージを膨らませがちな受験生に対し、その状況を明るく前向きに感じるヒントを投げ掛け続けることが、保護者の隠れたサポートなのです。「朝は物理が苦手。調子が出ない」といった悩みを打ち明けたのなら、その度に「そんなの受け止め方次第だよ。嫌なことが早く終わるんだし、朝から物理でよかったじゃない!」とポジティブに言い続けましょう。そうしたら、本当に午前中の物理が苦しくなくなり、むしろ得意になっていくことだってあります。
親子関係がうまくいっている家庭は、成績を理由に子どもの存在を否定するようなことがなく、「認めてあげるコミュニケーション」がしっかり行われています。笑顔で「そのままのあなたを愛しているよ」という気持ちを伝えながら、どんな状況も一緒に楽しむことが、かけがえのない励ましになるのです。
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