医学部受験コラム MEDICAL COLUMN

受験動向

医学部受験の最大テーマ、不正入試問題…「余波残る今こそ狙いどき」といえるのか?

2019.12.26

亀井 孝祥
医学部受験予備校メディカ代表

女子や多浪生を不利に扱っていたとされる「不正入試問題」。2018年夏に明るみとなって以降、東京医科大を皮切りに、疑惑の輪が拡大、医学部志望者を大いに混乱させる事態となりました。

不正入試問題が発覚してから、2度目の受験が訪れます。今期の出願率にどのような影響を与えているのか、気になるところです。

 

前代未聞の「不正入試」発覚で志願者が減少

事の発端は、2018年7月、文部科学省の幹部職員が東京医科大に口利きをし、息子の試験結果において、不正に加点してもらったことが始まりでした。その後、厚生労働省が全国の大学を調査した結果、複数の医学部で同様の不正行為が発覚したのです。

「募集要項に記載のない不適切な得点調整を行っていた」などとして、厚労省は、2018年夏から冬にかけて次々と学校名を公表していきました。名前が挙がったのは、岩手医科大、金沢医科大、神戸大、順天堂大、昭和大、福岡大。前述の東京医科大など4校を含め合計10校にのぼります。

このニュースを受けて、多くの受験生が、東京医科大ほか疑惑のある大学への出願を回避し始めました。結果、2019年度入試の志願者数は、東京医科大では昨年比約7割の大幅減となり、同じく厚労省調査で不正の疑いがあるとされた北里大、聖マリアンナ医科大、日本大への志願者数も減少しました。受験生の不信感が数字にはっきりと表れたのです。

一般的に、大学、特に医学部志願者が減少する理由については、「景気動向」が深く関係していると考えられてきました。社会全体が不景気だと、受験生は安定した国家資格である医師免許に興味を示し、医学部志願者は増加します。逆に好景気だと、「わざわざ狭き門に挑戦するより、一般企業で無難な仕事をすればよい」と、志願者数が減るのです。

2019年度、私立大全体の志願者数は、約1割減となっています。これに関し、「景気が好調だったからだ」との意見も確かにあることでしょう。しかし、東京医科大をはじめとする不正問題に関わった学校の減少幅は例年にないほど大きく、社会現象と言い切るのは無理があります。

「不正入試」による志願者減、各大学の見解は

昨年の志願者数大幅減について東京医科大は、「不正の影響で不合格となった受験生のうち、2017、2018年度の入試で不合格となった44人を追加合格とし、その分、2019年度の入試で定員を46人に減らしたことも原因のひとつ」としています。しかし、それだけの理由で約7割の大幅減は考えにくいものです。同大学は、不正発覚により受験生から敬遠されたことを真摯に受け止め、今後は公正・公平な入試に改め、受験生のみならず、社会からの信頼を取り戻す努力を始めているようです。

読売新聞の報道によると、前年比で約5割の志願者減に見舞われた聖マリアンナ医科大も、不正入試を含め、さまざまな問題が影響した可能性があることを認識しています。

同じく前年比約3割の大幅減となった北里大は、「18歳の受験人口の減少」「2019年度入試から出願を必着ではなく消印有効にしたこと」が影響した可能性があるという認識で、不正入試問題が少なからず影響を及ぼしたにしても、それだけが志願者減の原因ではないと考えているようです。

また、日本大医学部も約1割の志願者減となりました。これは不正入試問題だけでなく、アメリカンフットボール部で悪質な反則行為があったことも関係しているようで、医学部以外の学部の志願者数にもその影響は出ています。

ちなみに、アメフト部の問題を検証するため同大学で立ち上げた第三者委員会では、「問題発覚後に理事長が適切な対応を行わず、社会からの非難を増幅させた」と結論付けました。文科省も「理事会による適切な事後対応がなされなかった」「学校法人の管理運営が不適切であった」とガバナンス体制の不備を重く見て、2018年度の私学助成金を35%減額しています。

多くの医学部の志願者が大幅に減少するなか、昭和大と福岡大では、若干数ではありますが、昨年を上回る志願者が集まる結果となりました。出願状況の途中経過や最終志願者数を公表するなど、受験生に寄り沿う真摯な姿勢が評価されたのかもしれません。

「大学側の態度」が医学部受験の選定のポイントに?

不正疑惑を指摘された10校の医学部では、一般入試でも志願者数が低調な傾向となりました。この問題は医学部だけでなく、大学全体のイメージ低下にも結びつき、長年培ってきたブランドイメージに大きな傷が付いてしまう結果となりました。

さらに不正入試問題を受け、文科省は、東京医大や日本大など8校に対し、2018年度の私学助成金を減額すると通達しました。その結果、各大学は経営面でも厳しい状況に立たされています。

ほかの学部の受験料が3万円台なのに対し、私立大医学部は6万円、おおよそ倍の金額を受領しています。大学の経営面で考えると、医学部の志願者が減り、受験料収入が得られないことも大きな痛手です。問題の影響が長引けば、各医学部の教育・研究の質の低下、さらには学生の就職先となる付属病院の運営にも影響が及ぶ可能性があります。

問題を検証する調査や公表が十分になされなければ、受験生の疑念を払拭することはできません。受験生、そして保護者も、「不正入試が指摘された大学は避けたい」と考えるのは当然です。ですが、不正があったことを理由に受験をしないことは得策といえるのでしょうか。一度の不正入試が原因で、その大学の卒業生や今後入学する人が否定されてしまうことはないと思います。そうではなく「今年も不正入試があるのではないか」という点に不安が残る場合は、今年受験する現段階で、入学者を選抜するプロセスの透明化、合否判定までの情報開示がしっかりされている大学を選ぶべきでしょう。

医学部はさらに「狭き門」になっていくのか?今こそ合格のとき

とはいえ、全体的な医学部の難易度は変わりません。偏差値はほかの学部と比べて非常に高く、合格率も1割未満という非常に狭き門です。志願者数が減った今こそ狙いどき!と考えるのではなく、あくまでも過去と同じ受験競争が起きていると考え、試験勉強・受験に臨みましょう。

今でこそ高すぎる難易度に、さらに拍車をかける話題があります。厚労省は、現役医師の総数が2028年ごろには約35万人に達し、「医師不足」が解消されるとの推計を公表。併せて、2022年度から医学部の入学定員を減らす方向で議論している旨を明らかにしました。

2008年以降から10年間、「地域枠」を中心に政府主導で進められてきた医学部入学者定員増政策でしたが、医学の道がより狭き門になりそうな兆し…。しかし、2022年までのラスト2年間のうちに医学部受験にチャレンジできる人は幸運であるといえます。この限られた期間内に受験可能な人たちは、ぜひ「合格」を勝ち取っていただきたいと思います。

 

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